運命の女神は誰に従ったのか〜「チュベローズで待ってる AGE22・32」読了〜
※本記事はネタバレを存分に含みます。まだお読みでない方はお気をつけください。
「人も、人生も、もっと複雑なんだよ、金平」
「その複雑さというのは」
「この煙を成分ごとに分けるようなもんだ。そんなことできるかい?そもそもあっという間に広がっていってしまうのに」
出先じゃなかったら、家で読んでいたら大泣きしてしまっていたかもしれない。外だから我慢できたけど。哀しさなのか、感動なのか、救われたからなのか、救われてないからなのか、なんの涙からわからない。なんなのか追求することは、タバコの煙を成分ごとに分けるようなもんだろう。
読み終えてから数分間ボーッとしてしまった。目の前に起きた出来事があまりに壮大で、受け入れられなかった。
そして光也や雫、八千草弟、八千草兄、美津子、登場人物を通して著者である加藤さんを思った。この物語を書いたのは、わたしがすきなアイドルなのだ。ついこの間放送されたプレミアムショーで歌い、踊っていた加藤さんなのだ。
これって、今は当たり前のようになっているけどすごいことなんじゃ……!?改めてその事実に震えたし、忙しい日々の中でこれだけの大作を書き上げた加藤さんって一体……!?
上巻だけを読んだら、救われたようで救われなかったんだけど、下巻のラストのラストまで読んだら少しは救われた気がしました。加藤さんはそういうラストを選ぶ人なんだろうねぇ。すべて救われるわけではないけど、心が救われるようなラスト。
わたしはこねくり回した物語の最後が全員幸せだなんて、そんな綺麗事はないと思ってるんですよ。だから加藤さんの作品がすきなのかもしれない。
奥に潜むテーマについて
「チュベローズで待ってる」、う〜ん、これは"自分"と対峙する物語なのかなぁ……。このへんは1回読んだだけじゃわからない部分が多くて。
帯に書いてある「ゲームの中心は僕じゃなかった」という事実、この衝撃ってすごいんですよ。上巻からこれまでのストーリーがまさか"背景"だったなんて…!例えば、今生きてる人生が誰かに操作されている人生だと思ったら、ゾッとしません?自分が選択してきたと大学や就職先、恋人が、実は奥の奥に潜んだ人にコントロールされていたら?……ヒーーー!!!そんなこわいことはないよね……。
ただあれなんです、光太がずっと選択させられていたというわけではないと思うんです。
運命の女神は冷静に事を運ぶ人よりも果敢な人によく従うようである。
という『君主論』の引用がありましたけど、これは結構後からじわじわ効いてくることばですよね。光太が進めてきたゲーム開発は確かに美津子の意思だったかもしれない。八千草への復讐もユースケの意思だったかもしれない。ただ、彼にも彼なりの意思はあったはずなんです。だから運命に翻弄され続けてたわけじゃないと信じたい。最後に美津子に会えたのは、光太の意思に運命の女神が従った結果なんじゃないかと思いたい。
結論、この物語は「与えられた環境から飛び出すには自分の意思で動かなくてはいけないし、そうしないと運命の女神は味方してくれねぇぞ!いつまでも主人公にはなれねぇぞ!」というのがメッセージの1つになっているのかなぁと勝手に解釈しています。これはホントにわたし個人の受け取り方だから、多分人によって違うんだろうなぁ〜!
※余談ですが、『君主論』が後半で生きてきたなぁ〜と思うのは、
ある君主の頭脳がどの程度のものかを推測する場合、まずは彼の近辺にいる人間を見るのがよい
ココです!!!上巻の最後、最終面接のときに光太が引用していた部分。下巻になるとグッと意味を持ちます。八千草弟の近辺には八千草兄がいたっていうあたりにかかってきてるのかなと。伏線回収が素晴らしい……!
ちなみに上巻もサラッと読めましたけど、ページ数が増えた下巻のスピード感はそれ以上でした。
だって!!!
先が気になってしょ〜〜〜がない!!!
ブルーレインで「助けて兄ちゃん」と八千草弟が言うまで、イヤホンから八千草兄の声が聞こえるまで、この話の転→結がどうなるのか全く想像がつきませんでしたね〜。
しかし、そこから先の展開も予想外に次ぐ予想外、いや〜、驚かされました、ありゃ〜!!!やられたわ〜〜〜!!!
上下巻の使い方の巧さ
そうそう、あとは上下巻になったことで物語の奥行きがより広がって、「チュベローズで待ってる」を厚みのある作品にしていたなぁと感じました。AGE22だけで完結してもいいような、AGE32だけでも成り立ちそうな気もしなくないんです。
就職活動に失敗した光太がホストでの経験を経て、最後には就職という成功を掴む物語。
一発逆転で大手企業への就職を成功させた光太が、昔の恋人が自殺した真相に迫る物語。
それが2冊になっていると。"その前"と"その先"でそれぞれドラマがあり、絡み合うことで、光太の人生が立体的に見えるんだな〜〜〜と思いました!この構図にも驚かされましたね。だからエンタメ要素の強い今作でも、薄っぺらくないのではないかと…!
小難しく書いてしまいましたが、とにかくとっても面白い新作でした!!!
最新作が1番面白い、そういう作家はこれからもずっと追いかけていきたいと思わせる。今が1番カッコいいアイドルと一緒です!
加藤さん、形にしてくれてありがとう〜〜〜!次の作品もたのしみにしています〜〜〜!
追伸:
ちなみに最後の電話、最初は芽々からだと思ってたけど、亜夢かな〜とも思うし、ここで電話がかかってくる意味はなんなのだろうか。気になる。深い意味がないようにもとれる。