宝箱

すきの定義は「心を動かされる」こと

語られる「チュベローズで待ってる AGE22・32」~Twitter文学賞結果発表会の話~

こんばんは。家を出た瞬間にくしゃみが出ましたが、懲りずに梅を見に行って涙を流しながら写真を撮ってました。くしゃみ、涙、鼻水が止まらない夜を迎えております。

さて、昨日の14:00~Twitter文学賞結果発表会が行われました。

 

 

先ほど結果の確認と、「チュベローズで待ってる」へのコメントのところだけ先に見た。リアルタイムで見てなかったのと、Twitterでもまだ見ないようにしていたので、結果を見るのもかなり恐る恐るだったけど、加藤さん、1位おめでとうございます。

最後に主催者の豊崎さんは以前わたしもブログに書いたような内容にも触れた。 

n-e-w-s.hatenablog.com

しかし決して加藤さんに不利なニュアンスでなかったことが、この「チュベローズで待ってる」への評価なのだと思う。少しでも加藤さんのおこがましさが素直な喜びに変わったらいいなぁ。

発表会の様子ですけど、みなさんが加藤さんの作品について話している様子だけでもわたしはうれしくて。やっぱり人の解釈を聞くのはとてもたのしい!普段本に関わる方々のことばの中にはもちろん専門的な視点もあるし、なんとなく思っていたことが言語化されてスッキリした部分もあった。もちろんアイドルという先入観はあったはずだけど、こうして評価してくださっているので、さらにうれしい。

内容が面白いし、ファンとしてうれしいことばが飛び交うので、どうしても文字で残しておきたくて、今回文字起こしをしてみた。

豊崎由美さん(書評家)、大森望さん(書評家・翻訳家)、杉江松恋さん(ライター)、佐々木敦さん(批評家)、倉本さおりさん(ライター)が当日登壇されてます。(※表記はTwitter文学賞内での表記に基づく) 以下、1位発表→杉江さんによるあらすじ説明の後、2:33:56頃からのコメントです。

杉江さん:
これまで結構一人称とかを用いて青春小説の面が割と前に出てきてて、プロットの書き方なんかはやはり「粗いな」と思うときはあったわけですね。で、今回は完全に自分の芸能人としての立ち場は離れて、ミステリーといいますか、エンターテイメントのプロットをうまく使いこなしてるっていう点では、作家としては本当に成長を遂げていると思いますし、まぁどっちかっていうとみんな最初の上巻に当たるAGE22だけを見てですね、「若者がホストクラブ、ありがちなテレビドラマになりそうなネタだよね」と思ってると思うんですけど、大森さんも週刊新潮の書評で書いてると思いますけど、どっちかっていうと下巻の方が主だし、下巻の方のいろんな展開があって、あととんでもなく変な人物がでてきたりするんですけど、ああいうネタとかの仕込みとかが面白いんじゃないかなと思うんですけど、SF的にはどうなんですか?(笑)
大森さん:
なんか、著者のインタビューで伊藤 計劃*1を参考にしたとかいうね。
豊崎さん:
読書家なんですよね、加藤さんは。
大森さん:
伊藤 計劃リスペクトで近未来要素のガジェットを作らないといけないと思っていれた」っていう風に言ってて、まぁでもあの俺は『ゲームの王国』*2のネタと比べれば明らかにですね、チュベローズのSFネタは弱いですよね。弱いっていうか、まぁあんまり筋はよくない。でも全然ダメかっていうとギリギリは成立しているので、別にSFとか近未来とかいう必要はない、ほぼ現代小説として成立しているし、むしろゲーム会社が訴訟リスクにさらされたときの役員会の描写とかがちゃんと書けてるところが、そのへんがビジネス小説。急にビジネス小説になるんですよ。上巻AGE22ではホストクラブでどうやって成り上がるかみたいな、ホストのテクニックとか、客から金を引き出すコツみたいな話が語られるんですけど、それはそのままビジネス小説にスライドしていくし、マキャベリの『君主論』かなんかをずっと読んでるっていうか、彼にとってメンターの役割を果たすゲーム会社に勤めてた役員の年上の女性っていうのがですね、いろんな面接のコーチングとかをするんですけど、その彼女の家にあったのが『君主論』で、その『君主論』に、その彼女はどうして『君主論』を持っているのかとかね。彼女の行動っていうのが結構上巻では様々謎な、謎めいた行動とかするし、謎めいた運命をたどるんですけど、その謎が下巻の伏線に実はなってる。だから上巻だけ読んでもあんまり伏線と思わないんだけど、実はそれが全部伏線にだったってことがわかって、しかもその伏線の回収の仕方があまりにもとんでもないので、完全にバカミス*3です!(笑)バカミスっていうか、「ありえないだろう!」とか思うよね、こんなことを普通書かないというような謎解きが。
倉本さん:
ミステリー警察はどうですか?(笑)
杉江さん:
あのね、ミステリー警察的に言わしてもらうとですね、
大森さん:
普通のミステリー作家は書かないよね。
杉江さん:
うん。いや~、あれはね、書くと整合性がどうとか、
大森さん:
そうそうそう(笑)
杉江さん:
現実的にどうかなとか思うところだと思うんですけど、
大森さん:
最初の方にちらっと謎の部屋が会社の中にあるみたいな話が出てくるんですけど、そういうのが全部、「え、それがそうだったの」っていう(笑)「でも普通ありえないよね」みたいな話を平気で書いてるところがやっぱり、結構新鮮な驚きがあってですね、それをジャニーズの人が書いてるって思うと、ますますどう考えたらいいのかわからないというような、その、壮大な、なんていうか(笑)、サプライズが。
杉江さん:
でもあのネタは面白かった。
大森さん:
面白い。面白い。
杉江さん:
びっくりしましたもん。
大森さん:
予想しない。だって普通さ、杉江松恋とかもうどんなミステリー読んでも驚かないからだになってるわけですよ。それでも不意をつかれるからね。
杉江さん:
「なにこれ!」と思いましたからね。そして今までの話はなんだったんだっていう(笑)
大森さん:
そうそうそうそう(笑)そっちがすごすぎてそれまでの話が全部飛んでしまうというね。僕はでも寝物語的にホストクラブの客が就職面接の指導をするとかいうところが結構好きでしたけど。『フリッカー、あるいは映画の魔』*4 みたいな。
杉江さん:
なるほどね(笑) セオドア・ローザック*5ですか(笑)
豊崎さん:
私あの申し訳ないんですけどちょっと時間がなくて、最初のAGE22しか読めてないんですけど、大森さんと私は"文学賞滅多切り"っていう下品な仕事をしてるので(笑)、あの時々ね、芸能関係の方が書いてる小説も読まざるを得なくて読んだりする。私は想像以上に加藤さんの文章はしっかりしてるなと思いました。はっきり言って前の『ふたご』*6?世界がどうしたの『ふたご』?あの人と比べたら、本当にプロ。プロの文章だなと思いました、プロのエンターテイメントの文章だなと思いました。で、ただ、これ言っとかなきゃいけないんですけど、さっき5位の大森さんのことにも触れたので、やっぱ言わないと不公平になるから言いますが、いろいろ今回323票を投じてくださったみなさんとTwitter上でいろいろやりとりがありました。で、いろいろ誤解もありました。その中で私は全部無視して当該ツイートを消した大森さんと違って、「加藤シゲアキさんのファンで、加藤シゲアキさんを応援したくて、そして加藤シゲアキさんの小説を読んだら本当に面白いから、本当に面白いからTwitter文学賞というものがあるんだから、投じたいわ」って投じた人たちの気持ちは伝わりました。私の中ではこの1位に関してはまったくわだかまりはありません。基本的にTwitter文学賞は投票で成り立ってます。Twitterをやってる人だったら誰でも投票できます。だから、こういう、今まではどっちかっていうと純文学作品とかが強かったりとか、あったから、いろいろ思う人もいるかもしれないですけど、私は杉江さんからね、前から「加藤さんはすごく頑張ってる。加藤さんはすごく勉強なさってるし、小説もどんどん良くなってる」って聞いてましたから。で、自分もAGE22を読む限りにおいては、「Twitter文学賞1位おめでとうございます」っていう風に普通に思います。ですから、本当にみなさんも素直にね、心の底から加藤さんの今回の1位をお祝いしてほしいと思います。加藤シゲアキさん、本当におめでとうございます。

 

以上です。う~~~ん、やっぱりうれしい。 そしてわたしも下巻を読んだときに、「上巻はなんだったの!?」って思った。

 

今回を機に、本好きな人が加藤さんの作品を、加藤さんのファンが文学に興味を持てたらすごく良いなぁと思います。誰かにとって、良いきっかけになりますように!

 

チュベローズで待ってる AGE22

チュベローズで待ってる AGE22

 

 

 

チュベローズで待ってる AGE32

チュベローズで待ってる AGE32

 

 

*1:伊藤 計劃…SF作家。処女作はゼロ年代日本SFのベストに挙げられている。(Wikipediaより)

*2:『ゲームの王国』…小川哲著のSF小説。下巻にて登場人物が脳波測定を用いた最先端のゲーム開発に携わったりする。

ゲームの王国(上) (早川書房)

ゲームの王国(上) (早川書房)

 

*3:バカミス…日本国内における推理小説の分類の1つで、「おバカなミステリー」もしくは「バカバカしいミステリー」の略語である。ただし、この「バカな」は(この言葉の定義については諸説あるが、一般的に)小説作品を侮辱するような意味合いの「馬鹿な」ではなく、「そんなバカな!!」のような感嘆、賛嘆などの意味を込めたものと解釈される。(Wikipediaより)

*4:フリッカー、あるいは映画の魔』…セオドア・ローザック著のミステリー小説。「このミステリーがすごい!」1999年版(1998年の作品) の海外部門1位作品。

*5:セオドア・ローザック(Theodore Roszak)…アメリカ合衆国歴史学者カリフォルニア州立大学イーストベイ校の歴史学名誉教、小説家。(Wikipediaより)

*6:ふたご』…某音楽グループのメンバーの初著書である青春小説。