宝箱

すきの定義は「心を動かされる」こと

「BE@RBRICK WORLD WIDE TOUR 3」感想

先日行ってまいりました、「BE@RBRICK WORLD WIDE TOUR 3」ことベアブリックの生誕20周年イベント。(表参道ヒルズに初めて入った……。)

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自分自身はベアブリックの熱心なファンではないのですが、ベアブリックの熱心なファンのますださんがなんと参加アーティストとしてデザインをしたベアブリックが展示されるとのことで、足を運ぶことに。事前に大々的な告知もなく、ジャニーズがサラッとこういう外部のイベントに関わることもあるのね。ますださんのベアブリック好きとファッション分野での活躍がどこかで誰かの目に留まったんだろうなぁと思う。4日に更新された〇〇でデザインをした話に触れ、「嬉しい。幸せ」と綴られているのを見て、見に行くのがさらにたのしみになった。

当日、入場開始時間から少しタイミングをずらしたのがよかったのか、空いている時間帯にゆっくり見ることができた。すきだったものを順追って。

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小林千鶴さん。細いワイヤーで出来ているワンピースは透明なのに存在感があった。

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ハユ。同じワイヤーでもアプローチが違うと別物ですね。

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横から見るとこう。奥行きが感じられておもしろい。

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エイチエス廣田彩玩所。メカメカしてるのがすきなので、めっちゃ好みだった。背中を撮り忘れたけど、背部まで細かい作り込み。

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会場は草花で彩られ、ベアブリックたちは絶えず回転している。部屋は二つ。

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二つ目の部屋に移動すると、来ましたわ!ますださんのベアブリックハリボーみたいなミニベアブリックがカラフルで、超かわいい。ブラックライトが付いたら消えたりして、白が蛍光色に発色する。回転しながらライトの点灯により表情を変える遊び心。

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遠目では気が付かなかったのだけど、近づいて見ると頭や背中、足にクマ型の穴が開いていて、「足元に落ちているクマたちは本体から溢れ出たのだろうか?」とストーリーを感じたりもする。そういうところがとてもとてもますださんのデザインだなぁ。

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ナイキ。ベアブリックなのかと言われるとあれだけど、これ結構すきです。一目見た瞬間に「ニケだ」と思い惹かれたわけですが、デザインがナイキだと知り納得。台座に刻まれているダブルミーニングNIKE

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サミュエルロスとレディメイド。このあたり見てて長尾くん興味ある展示なんじゃないかなと思った。たびたび私服でレディメイド着てるのです、彼。

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サカイ×カウズ。実在してる洋服を着ており、かわいかった。

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https://store.sacai.jp/kaws

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内装。

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番外編。ジェネのおふたり。亜嵐くん、玲於くん。三代目JSBのエリーのもかわいくてすきだったのだけど、映り込みがあったので写真は割愛。

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スカパラの谷中さん。

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ドラえもん。ミッキー。キャラものはこの他にもチョッパー、アトム、ピカチュウなどあったけど、ミッキーが一番違和感ない。

 

同じ形をベースとしていても、ひとつひとつ全く別物でした。ベースが同じだからこそ、各人の個性やデザインへのこだわりが顕著に表れてたな。着せるひと、直接描くひと、構造からいじるひと、原型を留めない形にしているひと、既存のキャラを当て込むひと、アプローチも様々。

NEWSの衣装をデザインするますださんですが、それ以外のものを手がけたときにその個性に気がつくことができたような気がする。今回ベアブリックを見ていて思ったことは先述の通り、「ストーリーを感じること」。そして、対象物に対する愛。NEWSの衣装を見ていると半ば当たり前のように捉えていたことが、きっとますださんのデザインの味なんだと思う。そう感じられてよかった。

NEWSとともに「未来へ」、NEWSは「未来へ」

2021年11月17日、NEWS28枚目のシングル「未来へ/ReBorn」が発売された。

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(布のシワが気になる)

リリース日前日のフラゲ日。全曲を聴いた後、漠然と「未来に向かっている」と思った。合唱とともにストレートに届ける曲からエンジン全開でロックに歌い上げる曲、テイストをガラッと変えてラップを交えたり、 ☆Taku Takahashiさんによる浮遊感のあるオシャレサウンドがあったと思えば、冬に食べるシチューのような曲、歪ませた音に合わせて「死に物狂いで来い」とがなる攻撃性も見せる、バラエティに富んだ曲たち中に「ここで終わりではない」「これからだ」という一貫したメッセージを感じた気がした。

フラゲ日翌日のリリース日。所用で朝から移動時間が長かったので、たくさん聴いた。カップリング曲の歌詞を見ていると、「未来」という単語が見える。そこで「もしかして」と思い、全曲の歌詞を探してみると当たりだ、「未来へ」「ReBorn」「Running」「小さなクリスマス」「Future in Here」「JUNK」すべてに「未来」という単語が含まれていた。

無力な自分を知って
沸き上がってく
未来への声を

恐れすてて
叶うため生まれた未来だ

自分を信じて
超えてきた
誇りがある
大丈夫
未来で共に笑おう

終わりじゃないだろう?
超えてきた
誇りがある
叶うため
目指した未来だ

恐れすてて
大丈夫
未来で共に笑おう

Thats’s your last turn
All greenで 未来に向かって 3 2 1 and fire!

いつか結果に 笑いあう以外
俺らの未来には似合わない we say that

笑われたって 笑い返してやれ
未来でまた会おう

きっとそっと
想うあの未来(ばしょ)へ
いつかちゃんと
僕らあの未来(ばしょ)へ
繋がっていけるんだって
そう信じていた
青い午後

描いていた未来とは
少しだけ違うけど
それでもあの日選んだ
星を目指して

Our future is here いまここに。
ミライを待っていたんだ、ずっと

まだ見ぬ未来 自分なりに改造したっていい

掴んだ未来 自分の手で先制したっていい

ひとことに「未来」と言っても、NEWSが表現する「未来」にはいろいろある。「(自分が望む)未来は叶うためにある」といった希望的な位置付けであり、「会おう」「共に笑おう」と言った約束であり、「こうありたい」と願っていても手に入らなかった場所であり、手にした「今」でもあり、自分の手で変えていける先の時間でもある。書いていて驚いたけれど、「未来」というコンセプトのもとにこれだけ多種多様な意味を持たせられるというのはすごい。NEWSや製作陣が思う「未来」はこんなに多面的だという意味でもあり、今のNEWSが歌うからこそ感じるものがあるという意味でもある。

 

なんでもかんでもこじつけのように点と点を結ぶことはあまりすきではない。しかし、幾年かNEWSを追っていれば彼らと作品がいかにリンクしてきたか分かってしまう。個人的に、NEWSはストーリーとともにあるグループなのだと思ってる。NEWSが歌うからこそその曲の良さが何倍にもなる、そういう作品をたくさん見てきたことがわたしにそう思わせる。

「未来」という単語が散りばめられていることに気がついたとき、うっかり泣きそうになったのはそのせいだ。わたしたちリスナーへの応援歌であるとともに、宣誓のようにも聴こえたからだ。叶わなかった未来も含めて、NEWSが未来に向かっていく意思、なんとなく歩いていくのではなく、自分たちの手でその未来を掴みにいく力強さを感じる。

 

なにもかも永遠ではないことを知っている。ことにメンバーが脱退したり、ジャニーズの諸先輩方が新しい道を歩いていく姿を見ている昨今は特に、どれだけの奇跡が「今」なのか痛感する。

NEWSが今日もNEWSであることを選んでくれてうれしいなと胸がいっぱいだ。リリースおめでとうございます! これからもNEWSの音楽が続いていきますように!

さぁここから、物語が始まるのさ
Our future is here…

Narrativeとあやめ/終わりと始まり

加藤さんのラジオでこんな話があった。

ていうかまぁ、一曲一曲で完成してないからね、あやめ以降は。どうしてもあやめのあとになにを作るか、氷温。氷温のあとになにを作るか、世界、みたいな、こう、点が線になってるっていうかね。うん。線が描いて、まぁ、Narrativeに関しては、それをあやめに繋げるようなイメージではありましたけどね。もう作るということ自体がね、表現してやりましたんでね。

(SORASHIGE BOOK 2021.6.13回)

待って。なんかすごいことをえらいさらっと言うじゃないですか。

なんと4部作の最中に作っていた4曲のソロ曲は繋がっていたのです。鳥肌がたった。

この話を聞いて真っ先に思ったことが、「Narrativeで落ちた先があやめの世界だったのではないか」ということ。この2曲の繋がりが一番気になる。というか、きっと循環の肝だと思った。

加藤さんは以前セルフライナーノーツでNarrativeについてこう語っていた。

自分の内にある衝動やこれまでの経験を思い切り原稿用紙に殴りつけ、語り尽くす。

言葉になり切らない未完成の声をとにかく綴り、やがてページとなっていく・・・

あらゆる思いを抱えて放たれた叫び。それらを詰め込んでできた本の1ページ目を誰かがめくることになる。書くことの終わりは、読むことの始まりへと繋がっていくのです。

なるほど。ライブで見たNarrativeのことを思い出す。宙に文字を書きながら階段を登っていく。裸足で。書く、上る、書く、上る。その先に待っていたのは終わりだった。背中から下へ落ちていく。まるでこの世で役割を終えたかのように、自然と。あのとき、「この世で役割を終えたかのように」が「死」のように見えた。それは書き手が語り尽くした後だったのだ。声を綴り、物語に託し、書いた人としての輪郭を失っていく。それが「書くことの終わり」。

落ちた先でその人は倒れ、寝転んでいた。暗闇の中で。裸足で。これが「読むことの始まり」。つまり物語の1ページ目。ここからは書き手が「原稿に殴りつけ、語り尽くす」ように綴った、「言葉になり切らない未完成の声」だ。それは平和や自由や愛を願う圧倒的「生」だった。そんなことを、4年越しに知ることになるなんて、まさか思わないだろう。あやめを描ける人はやはり作家だったのだと思い知る。

おもしろいことに、このソロ曲のリレーはNarrativeからではなく、あやめから始まる。Narrative→あやめ→氷温→世界という順番なら、「もしかしてこれは物語なのでは?」と勘づくことができたかもしれない。しかし実際はあやめ→氷温→世界→Narrativeであり、最後までその全貌が見えることはなかった。正直繋がっているなんて思いもしなかった。Narrativeがあやめに繋がってると知る前と後では全く見え方が違うので、後からバラされた関係性には完全に意表を突かれた形になる。

Narrativeで迎えた「死」の後に訪れたあやめという「生」という話で言うと、死後の世界、苦悩から解き放たれて自由な場所に生きているという風にも見える。そう考えて一番に思い付くのが、キリスト教。つまり救済宗教や「死は救済」という概念。まぁキリスト教に限らず宗教ではよくある考え方ですが。ミッション系大学出身であるものの、キリスト教関連の授業を真面目に受けた記憶がないため、そのあたりにはあまり詳しくない。ゆえに深く語ることもできないんだけど、加藤さん自身はきちんと触れたことのある人間だと思うので、そういう概念も包含しているのかなと少し感じましたね。

物語が進むと、「どこかで生きてる俺もどうすりゃいいの」と葛藤の渦に飲み込まれながら「貴様が世界だ」という声に背中を押され、その人は筆をとり、「自分の内にある衝動やこれまでの経験を思い切り原稿用紙に殴り」…… そう、書き手となる。こうして循環していくのだとハッと気がつく。まるで輪廻転生のようで、とても壮大に見えつつも、一人の人間の心の中の小さな話なのかもしれません。それにしてもあやめから作り始めてあやめに戻ってくる流れを、こんなにドラマチックに作り出せる加藤さんの脳みそ、興味深すぎる。

 

まだ掴みきれていないのが氷温の立ち位置なんだけど、このテーマの中に氷温を入れる加藤さんはとってもロマンチスト。そういうところがすきですね。今日までに考えたのはひとまずここまで。

永遠に君に幸あれ~NEWS LIVE TOUR 2020 STORY~

あの夜散々つぶやいたこと、眠る直前までベッドの中で感じたこと、それがすべてだったけど、あまりに様々な感情が渦を巻いて、次に口を開いたらことばが出なかった。どれもしっくりこなかった。わたしは今、何を思っているのか。

 

ライブを見て初めて、ほんとの意味で「なぜ2020を冠したツアーだったのか」を理解できたと思う。

単純に2020年のツアーを2021年に持ってきたわけではなかった。照明が落ちて、再び会場が明るくなるまでの時間、その刹那的な瞬間だけ、わたしはいくら焦がれても叶わなかった2020年にいた。ツアータイトルに"2020"を残したこと、3人仕様のライブに組み替えなかったこと、3人になってから歌った曲がセトリに入っていなかったこと、それはきっと偶然ではなく必然だ。意思だ。メンバーが4人で、チンチャうまっかもカナリアも、そして3人のビューティフルも存在しない、だから「NEWS LIVE TOUR 2020 STORY」だったのだと。

そうする必要があった、NEWSにとって、そしてもしかしたらファンにとって。少なくともわたしにとってこのライブのある瞬間までは「4人のツアー」で、すきになってからNEWSそのものであった4部作が4人で幕を引いたように見えた。救いだった。黒に染まった4人の章の結末を、3人はその上から白いペンでもう一度書いてくれた。2020年のNEWSが見ていた最終章を大事にしてくれて、そして見せてくれたことに感謝しかない。

 

いざ歌って踊る姿を見たら、今のNEWSに一番期待してるのはNEWSだと思った。外から見たら、ボロボロのグループなのかもしれない。3人は残された人たちに見えるのかもしれない。でも、ステージに立つ姿を見たらそれは全くお門違いの推測だったと気がつくでしょう。彼らは今の自分たちに自信がある。残されたのではない、自分の意思でそこにいるのだとまざまざと見せつけられる。自分がすきなグループが、そのグループのメンバーにとって選びたい未来だったこと、それがファンにとってどんなにうれしいことか。

「NEWSまだまだカッコいいっしょ?」とキラキラした目をしたシゲに言われて、泣きながら頷いた。うん。NEWS、ずっとカッコいいし、まだまだカッコいいよ。

 

クローバーを聴いたら、2020年のことを思い出す。特に4月とか、5月とか。ほとんどの時間家にいて、一人だった。聴くのはなんとなくいつも夜だった。どうしようもなく不安でイヤホンを耳に差し込みながら散歩をした夜の冷たさを覚えてる。あの頃、クローバーはまるでお守りのようだったな。会えないけど、NEWSの温度を感じられるこの曲がすきだった。会場で歌われるのを聴いたとき、2020年のいつかの夜、毛布にくるまって小さくなっていた自分が抱きしめられたような感覚になって泣けた。当時の自分に教えてあげたい、「そこは冷たいと思うけど、未来はあたたかいよ」と。

小山さんは、なかったことにしない人だ。音が、ことばが、メロディがあったその空白を、たった一人口ずさんでいるのを見た。今はなくなってしまっても、過去にあったことを消し去らなくてもいいよね。愛しているままでもいいよね。

 

すきになった頃、増田さんはもう少しまっすーをかぶっていたと思う。歌を歌うにしても、まっすーのフィルターを通して音にしていたように見えていた。いわゆるストーリーテラー。きれいに語る人。感情を乗せるのが下手ということを言いたいわけではなく、私情を挟まない印象があった。唯一私情を挟んだように見えたのは、後追いで聴いたテゴマスのまほうのさくらガール。

その牙城を崩したのがU R not aloneだった。この曲を歌う増田さんは、紛れもなく心の底から歌っていた。自分と重ね合わせていて、それがビリビリと空気を伝って届いた。初めて披露されたNEVERLANDから今回のSTORYまで、振り絞るように歌う姿は変わらない。特別なんだと思う。

STORY、また歌の進化を見た。歌というか、ほんとは歌だけじゃない、ダンスも、表情も。ずいぶん自由に、思うがままに、高まりに高まった感情をぶつけるようなパフォーマンスではなかった? 「ここは大事なんだな」とか「今熱くなってるな」とか「気持ちいいんだな」とか、感情のうねりが見えた。ボルテージが上がってることがわかりやすいのは、(‪Dragonism‬〜)夜よ踊れ〜FIGHTERS.COM〜エスのゾーン。リミッターを外して全開、一切容赦してくれないその姿にまたクラクラした。一生敵わない。すき。

 

時間差でチクチクと胸を刺したことばがある。思えば、「抜けた」いじりを一番ポップにしてきたのが増田さんだった。(小山さんはいつも巻き込まれてくれたし、シゲは乗ってこなかった) 対外的にそうしていきたかったのだと思う。テレビとかを見ていてもそうだった。でもサプライズの後、あれはついこぼれてしまったんだと思う。「形を守れなくて申し訳ない」配信が終わってしばらくしてから急にそう言った泣き顔を思い出して、少し、いやかなり苦しくて、胸がちぎれそうになった。自惚れた言い方をするなら、あれは身内にだけ見せた弱音だった。

わたしたちが「NEWSを残してくれてありがとう」「NEWSを守ってくれてありがとう」と思ったこと、きっと"声"を通して伝わった。その上で増田さんは、それでも4人のNEWSを守りきりたかったのだと、それができなかったから、謝っていた。つらかった。届かなかったのではなく、届いてもなお彼は自分を許せなかったように見えた。「許していいよ」なんて、言えない。たとえ誰が許しても、これから先もずっと自分を許さないんだと思う。

自分がすきになって、すきでいた4人のNEWSを失ったことはたしかに苦しかった。目の前が真っ黒で、ゲームオーバーのような気持ちだった。信じていたものが砕ける音を聞いて、もう立てないかもしれないとも思ったし、それならそれでいいと思った。それでもわたしは立ち上がって、STORYを見届けることができた。それは3人がNEWSを選んでくれたから。砕けた破片を宝箱に入れて閉じてしまうのではなく、もう一度繋ぎ合わせて息を吹き込んでくれてよかった。悲しかったよ、悲しいよ、許さなくてもいいよ、でも、うれしいのもほんとだから。STORYも最高のツアーだった。エモーショナルさだけじゃなくて、エンターテイメントとして純粋にたのしかった。だから、悔しさ以上にしあわせを感じてほしい、なんていうのはファンとしてのわたしのエゴかな。今もステージでNEWSとして輝いてくれてありがとう。次に会うときは、いっしょに歌わせて。

ずっと同じ景色見てきたね
君がいるから幸せ
幾千の悲しみや別れ乗り越えて
永遠に君に幸あれ

ステージの真ん中で内側を向いてそう歌うことを選んだNEWSがすきだった。ああ、わたしはNEWSにしあわせでいてほしいんだね。

NEWSのすきな曲、コンサート演出、衣装ベスト10

増田貴久の○○が5周年! おめでとうございます!

そんなおめでたい記念に現在ますださんによる一問一答企画が行われている。そこでこんなことを言っていた。

俺らの曲で好きな曲!

聞きたい。

なんで好きか!

好きな演出とか!

衣装も聞きたいな!

ここでオタクの頭がフル回転を始めてしまう…!!!

そこで改めて自分のすきな曲、コンサート演出、衣装を10個ずつあげてみることに。ちなみに厳選するだけでもかなり時間を要しており、泣く泣く削ってそれぞれ10個に収めている。順番を決めるなんてことになったら時間が足りず人生が終わってしまうので、上位を順不同で並べることにした。

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すきな曲ベスト10

最初かなり絞って選んだつもりが40曲ほどになっており、苦労した…。一応10曲選定してみたものの、次選んだらその40曲の中からまた違う曲を選んでる可能性もあるだろうなぁ。思い出補正はなるべく省き、単純に曲としてすきな曲を今回は選んでみた。

■I・ZA・NA・I・ZU・KI

順位は決めないといった矢先だけど、一番すきな曲かもしれない。音楽的に、歌詞的に、世界観的に、そして歌のハーモニー的に、どれをとってもドストライク。WORLDISTAで初めて生で聴くことになり、ブワァッといろいろなものがこみ上げた記憶が今でも鮮明。

n-e-w-s.hatenablog.com

 以前ブログに書いたけど、大昔に散ったいくつもの悲恋とその悲しい結末唯一知っている月の歌だと思ってる。

星をめざして

「一度死んで また生き返る そんな 魔法を かけられていた」という歌詞を、メンバー脱退後6人でリリースする初シングルの頭にセンターに歌わせるの、すごい。この曲からNEWSの曲に「NEWSというストーリー」が含まれるようになったように思う。

ただそういう物語性ありきですきなのではなく、単純に曲としてすき。一瞬の煌めきを閉じ込めたような曲。永遠じゃないからこそせつなくてきれい。そういう意味で、個人的にもうNEWSには似合わなくなってしまったなと思う。「みんないるかい」と問いかけなくとも、彼らは答えを知っているだろうから。そして今のNEWSは刹那的というよりも、もっと恒久的に見えるから。

Winter Moon

隠れめっちゃすきな曲。さくらガールもだけど、ピアノの曲がすきなんだ。「消えてしまうそうな はかない笑顔に ふたりの秩序が崩れ落ちてゆく」を歌うますださん最高では…。

言おうとしたこと、昔の自分が言ってた。

■Dance in the dark

「どうするの?どうしたい?」ウッ……………………。

これはもうことば(理性)ではなく本能じゃないですか?(放棄すな)

今のNEWSがやったら、会場中がなぎ倒されてしまう……。

■バタフライ

優しくて、あたたかくて、ホットミルクのような曲。「大丈夫 おやすみ、頑張ってる君が好き」という歌詞は魔法のようなフレーズ。この曲をライブで歌ってるときのメンバーの顔が愛に溢れていて、愛しくなる。

星の王子さま

再生回数がぶっちぎりて多いと思う。外的要因により人生で一番悔しくて落ち込んでいる時期、「世界が全て正解じゃない」という歌詞に何度も何度も救われたなぁ。

■U R not alone

NEWSの歌のパワーを最大限に引き出す曲。逆に今なにがすきとか説明するのが難しいね。この曲とともにいろいろなシーンを乗り越えてきたし、支えとなっていたし、そして、

我々のパートがあります。 

n-e-w-s.hatenablog.com

 この楽曲を歌うNEWSは、世界一力強くて、世界一脆い。

AVALON

NEWSが歌う桜の曲はいつもせつない。さくらガールのせつなさとは少し違うのだけど。☆taku takahashiさんの手によってデジタルデジタルしたサウンドになっており、生の桜というよりは、バーチャルの桜を想起させる。

n-e-w-s.hatenablog.com

AVALONは遠い未来に浮かぶ島。そこにはもう草木や花はなくなってしまっている。その島にたった1本咲いてるのが人の手でつくられた桜。これはいわゆる”データ”で、プログラミングされた実体のない桜。落ちてくる花びらには触れられないのです。

主人公はAVALONで彼らと夢の中で出会ったことがある。桜が舞う季節になると胸が苦しくなるんだけど、どうして涙があふれるのかはわからない————。

 と、ここで流れるのが「AVALON」です!!!たのしい……たのしすぎる…。「AVALON」だけで1冊書けるよ…。

■夜よ踊れ

最高の要素が全部詰まってる。

n-e-w-s.hatenablog.com

■Champagne Gold

ここで入ってきたよ、ド新曲。夜よ踊れチームの新作です(すきに決まってるだろうが!)もうサウンドがすきなのよ。からだがゆらゆらする。めっちゃ聴いてる。

随所に加藤さんの中世的な高音が効いてて良い。ますださんの「甘いフレーバー」をはじめとする息多めのア行が良い。「普通の針じゃ物足りないでしょ?」はライブで死人がでます(予言)こやまさ… こやまさーーーん!!!!! 低音が響くので曲をパリッとさせていて良い。

 


すきなコンサート演出ベスト10

パッと浮かんだものから列挙していったものの、円盤を見ているうちにあれもこれもになってしまったのでこちらもかなり厳選した。

■SNOW EXPRESS→Winter Moon<WHITE>

すきな演出と聞いてすぐに思いついたのがこれ。WHITEというコンサート、「SNOW」を含む曲を黒い衣装を纏い、4本のスタンドマイクの外側に立ち、向き合って歌う。「お目覚め」以降頭上からの照明は落とされ、正面から照らす照明のみになると一時4人のシルエットだけが浮かび上がる。これがきれい。続いて流れるように始まる曲が冬の雰囲気そのままにWinter Moonというのがまた、類を見ない美しい曲の置き方。

■ESCORT<QUARTETTO>

加藤さんソロ演出全部すきですきでせめて一曲と思いつつ悩みまくったんだけど、ECCORT、あやめ、CACAO(2020ver.)まで絞り、ESCORTにした。まず、登場シーンからすきだから!!!メインステージ真ん中の去っていく小山さんをエスコートするようにドアを開けているのが加藤さんなんてさぁ… 最高だろぉ…(ライブ後の居酒屋テンション)曲間のつながりをこういう風に生かしてくるし、それ以降も物語を感じる演出が続くのでだいすき。荷物を載せて運ぶためのラックに乗り、上下に分かれているステージの下から上へ運ばれていく。扉の向こうにいる「誰か」に青いバラを渡し、「シーッ」と秘め事の向こうへ去っていく最後まで含めて転げまわるくらいすきだな…。

■NEVERLAND OP<NEVERLAND>

伝説のOP。初めて入ったジャニーズのコンサートのOPがこれでした。とんでもないでしょ。

汽笛とともにメインステージ中央から汽車が出てきたと思えば、円状にぐるっと形状を変え、センターステージがせり上がり、その真ん中からNEWSが登場。あの衣装で。刀、ステッキ、旗、松明それぞれを持ち、炎と水の中に佇んでいる姿を見て一気に世界観に没入する。作り上げたNEVERLANDのファンタジー世界をドデカいスケール感で迎えてくれる個人的歴代最強OP。

■Brightest Inter<NEVERLAND>

Jr.の動かし方に惚れ惚れするInter。加藤さんソロ「あやめ」で円状にひれ伏す形でステージに留まっていた真っ白な衣装の彼らがInterの訪れとともに立ち上がってゆらゆらと動き出す。Brightestに向かってセンターステージからメインステージまで隊列を成しながら踊り、進んでいく。音楽も演出も最高にオシャレでだいすき。曲間のつながりさえも逆手に取る。

■EPCOTIA OP<EPCOTIA>

囲われた円状のセンターステージが持ち上がり、現れたステージ中央に置かれたスペースシャトル、Aメロ、Bメロを歌う声だけが聴こえる。シャトルから出てくるものだとばかり思っていたのに、なんとその頭上に宙づりされる形で登場してくるという激ヤバ演出。EPCOTIAのテーマが宇宙だからだ。予想を何重にも裏切られたOP、驚きと興奮で血管がブチ切れそうになった。

AVALONの舞う桜<EPCOTIA>

青とピンクの照明で、全体に薄暗くミステリアスな雰囲気。大さびで桜の花びらがドバっと降ってきて、風に煽られ舞う桜の中で歌うというのがとてもすき。

ますだ担だけ振り付けがあると思っていた、あのパート(ますださんはすごい踊ってるけど、他メンバーはそうでないと後で教えてもらって知るのだった)

■タイムワープ<EPCOTIA ENCORE>

天才の発想? ソロ曲ゾーンの前に差し込まれ、「機長より業務連絡です。ただいまタイムワープの歪みが発生しました」「乗客の皆様、これから少し時間の進み方が変わるかもしれません。でも、安心してください。これも宇宙旅行の楽しみの一つです」というアナウンスがある。つまり「時空が歪んでしまったから過去のソロ曲が出てきてしまう」という演出。

■さくらガールのしだれ桜<WORLDISTA>

閉じられていたモニターが真ん中から分かれて、その向こうには満開のしだれ桜。生で見たときの万感が記憶に残っていて、なんというか、イメージにピッタリで相当良かった。

Digital Loveのゲーム画面<WORLDISTA>

ゲームのような曲をライブで再現するにあたり、バックモニターにドット絵でゲームの背景を描き、ゲーム仕立てにするという演出(イメージはスーファミ時代のマ〇オです)モニター前に立つNEWSがさながらゲームの登場人物である。これはライブだけでなく、なんとSONG OF TOKYOのステージでも再現されていたのだからこだわりを感じる。

■I・ZA・NA・I・ZU・KIの月と水<WORLDISTA>

演出部門の優勝演出。生まれ変わってもすきだと思う。

舞台は雨降る月夜。増田さんがワンフレーズ歌って水をはねさせる(このときの水と尻尾の軌跡がまた…… 美しいんだ……)と、それが起爆剤になったかのようにメンステと花道のつなぎ目に雨が降り注ぎ、水の壁が現れる。(この流れ落ち始めるタイミングが最高なんだわ、また!)  水はそこから花道を流れセンステへと流れ込む。「水が流れている?」始めは目を疑った。水の流れをプロジェクションマッピングたいに映してるのかと思ったけどそうじゃない。光の反射、跳ねるしぶき、あれは本物の水だ。水の上に4人は現れた。狐のような尻尾を携えたあの衣装を纏って。前回と全く違う演出。4人になる前の曲だけど、こんなに伸び代があったとは……、脱帽。今回は「I・ZA・NA・I・ZU・KI」という曲から連想される物語がそのまま演出によって表現されたように思う。

 「あの月に」でテゴマスのハーモニーが響く瞬間に照明が切り替わって、月光だけに照らされる影のようになるのもすき。

 


すきな衣装ベスト10

ますださん、NEWSに関するすきが多すぎて全然終わりません。

■QUARTETO OP絨毯衣装<QUARTETO>

重い布、軽い布、布が多くてだいすき。幾重に重なり合ってカルテットになる。OP曲である「QUARTETO」には、"跳ぶ"振付がある。その瞬間がこの衣装の真骨頂。一体を覆う重い布がはためき、翻る、一連の画が美しい。ただの舞台衣装ではなく、"コンサートで踊って見せたときにどう見えるか"まで計算されていた。

■「オープニング」(スパングルのマント)<NEVERLAND>

OP衣装は、そのコンサートの象徴。マントを羽織った軍服のような形状はNEVERLANDの世界観を含み、光の当たり方により輝きを増すスパングルの派手さはOP演出に負けない華やかさがある。襟の形、装飾の種類や数、ボタンの仕様、細かにそれぞれが違っている。

「この生地との出会いが、NEWSがいるネバーランドのインスピレーション源にもなりました」

(『装苑』2017年9月号 p.42)

■「ファーのパッチワーク」<NEVERLAND>

色、素材、柄、さまざま生地が同居するハデハデ衣装。とにかくハデですき。キルティング、メッシュ、ファー、単体で見るとオシャレに見えなそうな生地たちも、アイディアと組み合わせ次第でこんなに異彩を放つ一着となる。

■「迷彩」<NEVERLAND>

迷彩をステージ衣装にするのは何気に難しいのではと思ったりする。元々の由来が「カモフラージュすること」であり、現代においてもハレとケで言えばケの印象が強い。それがどうだろう、野暮ったさもお馴染み感もない。迷彩をスパングルで表現していることもあるし、刺繍やスタッズをつけたり、多種の迷彩を重ね合わせていることも、この衣装がステージで映える要因かもしれない。重なり合うスカートのデザインがほんとにかわいいし、動き回るたびにキラキラと輝いていてよかった。

■「赤スパン」<EPCOTIA>

「大好きなSMAPとエンターテイメントへの思いと愛を込めて作りました」

(『装苑』2018年9月号 p.33)

We are SMAP! 2010 CONCERT」で見た赤の衣装からインスピレーションを得て作られた衣装。赤という色味で作り得る強さを表現しているようだけど、これを着て歌う一曲目が「KINGDOM」でとってもよかった。「紅く燃ゆる太陽」も。

OP衣装の下に着ており、スポーティーな赤。全身ほぼ同色でありつつも、ポイントの黒やミックスされた素材でメリハリがついている。靴はツアー用に「NIKEiD」でカスタムされており、右足に「NEWS」、左足に「2018」の文字が。

■「ミラーマント」<EPCOTIA>

めっっっっっっっっちゃすき。

当てる照明によりいろいろな顔を見せてくれる鏡素材の衣装。服というより、シンプルに鏡を纏っているかのようにギラギラとしている。素材の強さとは裏腹に、マントが雪ん子みたいでかわいいなと思ってる。

EPCOTIAではLPS~NYAROで色が変わるリフターに乗りながら来ていたこの衣装。立っているリフターの色や外周しながら変わる景色とともに色が変わっていったのが印象的で、外周するのにこの衣装を選んだ理由がよくわかった。

■メンカラ衣装<15th Strawberry>

衣装を見ただけで鳥肌がたったのは、後にも先にもあの瞬間だけですね。

n-e-w-s.hatenablog.com

■SPIRIT ジャージ衣装<EPCOTIA ENCORE>

ベースは既製品なのだけど、細部に神が宿っている衣装。シゲの衣装には「spirit」の文字とともに「1987.7.11」と誕生日を刻むなど、各衣装にますださん直筆の愛が張り付けられている。

細かすぎて、言われないと見てる側には伝わらないけれど、この仕掛けはそれをわかっててやっていて、なにより「着るメンバーの気分を上げる」ことを大事にしてるますださんらしいなと思った。

■「赤い馬」<WORLDISTA>

前から見ると一見シンプルでシックな赤ツイードの衣装。バックスタイルを見てビックリ、馬のしっぽがついている。ターンをしたときなど、動きに合わせて描く弧が美しい。

ラプンツェルからインスピレーションを得たという話を当時の〇〇で聞いたけど、いったいますださんの目から見る世界はどんな世界なんだろう?

■「黒い鳥」<WORLDISTA>

数えきれない黒のレースが基調となる、エアリーではためく布の動きがまるで羽のような美しい衣装。ターンから一歩遅れて付いてくるレースの余韻がすきで、この衣装を着て踊った2019年MUSIC DAYの「仮面舞踏会」、最後にピタッと動きを止めた全体の画の中でそのレースだけが舞っていてきれいだったなぁ。

 

 

これを書くために過去のコンサート映像をあれやこれや見ていたんだけど、

NEWSのコンサートがあまりにもすきすぎて、咽び泣いております〜〜〜。すきだ〜〜〜。最高だ〜〜〜。

すきを噛み締め、一層STORYがたのしみになりました。オチはない。

デジタルと五感の共生~「オルタネート」読了~

 3年前の冬、「チュベローズで待ってる」の感想を書いた。

このときも衝動でしたね。2020年の新刊「オルタネート」を読み終わり、居ても立ってもいられずPCに向かっています。

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まず一言目に「また最新作が一番おもしろい」、そして「まさに作家としての新章」という感想が。新潮社さんが「新章突入」とデカデカとポスターに刻んだ意味がよくわかる。避けていた恋愛を描写したり、映像を使う、特典をつけるなどの新しいプロモーションを取り入れたことなどわかりやすい部分以上に、表現において変化を感じる作品だったと思う。読後の爽やかさと、湧き上がったまま尾を引く感情が同居する、加藤さんの新しい作品だ。

STORY

高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須のウェブサービスとなった現代。東京にある円明学園高校で、3人の若者の運命が、交錯する。調理部部長で品行方正、しかし、あるトラウマから人付き合いにコンプレックスを抱える蓉。母との軋轢を機に、絶対真実の愛を求め続けるオルタネート信奉者の凪津。高校を中退し、かつてのバンド仲間の存在を求めて大阪から単身上京した尚志。出会いと別れ、葛藤と挫折、そして苦悩の末、やがて訪れる「運命」の日。3人の未来が、人生が、加速する――。
悩み、傷つきながら、〈私たち〉が「世界との距離をつかむまで」を端正かつエモーショナルに描く。3年ぶり、渾身の新作長編。

www.shinchosha.co.jp

※以後、物語の展開、セリフの引用を含むネタバレがあります。

 

重なり合う3つの物語の相互作用

今作は1つの世界の中に3つの視点が存在し、導入部分は蓉、凪津、尚志、それぞれの目から見える景色から始まる。3人は最後まで接点のないまま終わるけど、文化祭という同じ場所で「運命の日」、この物語で見えるクライマックスを迎える。ただし同じ高校を起点に展開されているため、別パートで名前が出てきたり、同じ景色を見ていたりする。

しかし、別々の物語であるのに「これはあっちの話にも通ずることなのでは」というようなセリフ(例えばp.350蓉母の「「間に合うよ!」」という声援、前ページの桂田の「「わからないけど、ま、まだ間に合うかもしれないから」」のアンサーとも取れる)や描写もでてくる。これがおもしろい。内容が異なる3つの物語がバラバラに見えないのは、全体を通して表現したいことが一貫しているからだと思う。 

 

それぞれに感じたこと

ある理由からオルタネートを使うことを避けていた彼女が、前向きな理由からアカウント開設に至るまでに人として変化する話。おもしろいよね、この「起」と「結」が心情の変化を表現しているっていう。自分を傷つけた要因が、今度は世界を広げるための道具になる。

このパートではSNSや配信番組といったもののポジティブな面だけでなく、ネガティブな面も色濃く描かれている。一番想像しやすい現実だと感じた。カップル動画で人気になることが目的になってしまっていて別れたカップルだとか、『ワンポーション』が今流行りのオーディション番組っぽく(パフォーマンスとも取れる厳しいコメントを言う審査員がいる)一般人に知名度があることによる弊害だとか、番組の話題作りのために利用される恋愛だとか。このへんはかなり時代を反映させているよね。

気になる相手の家に招かれてウィークエンドシトロンを作って持っていくのがかなりかわいかった。それは週末に大切な人と食べるためのレモンケーキ。お菓子に思いをこめる女子高校生のいじらしさ、思いつく加藤さんの頭を覗きたい。どの引き出しから持ってきているの!?

凪津

「個人情報そんなに提供して大丈夫か!?」と心配するほどオルタネートを妄信する彼女が、(蓉とは逆に)アプリをやめるまでに自分と向き合う決意をする話。何と言っても、この対比ですよ。蓉にとっては料理仲間を高め合えるツールとなったけど、凪津にとっては深層的に逃げる場所でしかなく、使う人によって形を変えるのSNSをうまく表現していると思った。

「データに裏打ちされたもの以外信用しない」の根っこには、感情的な行動による結果によって彼女が苦しんでいるという理由がある。途中で追加されたオルタネートの新機能である「ジーンマッチ」を使い、遺伝子情報から導かれたマッチング率の高い相手と出会ったものの、全く気が合わなかったことが彼女の固定概念が揺らいでいく。正しいのはデータか、自分の感覚か。結果として誤判定だったわけだけど、本質的に2人は似ていたよね。固定概念に囚われていることに気が付いた彼女が自分の在り方を変えようとデータから離れるわけだけど、このパートわたしにとっては少し複雑。マリーゴールドの伏線回収あたりとか、読み解きが足りない気がする。人の感想を聞きたい。

尚志

このパートはいろいろな要素を含んでいるけど、夢を取り戻す話、かな。

内面的には豊の方が変化したのかもしれない。医学部を目指すことを決め、本気でやってないように見えるバスケ部でも活躍してるのに、空っぽに見えたのは豊だった。夢も居場所もオルタネートもないのに、溢れる情熱があったのは尚志。高校を中退した彼は何も持っていないように見えて、持っている人。事実多方面から「俺は尚志がうらやましかったよ」「なんかよくない?」「きっと坂口くんはあなたがうらやましいんだよ」と語られる。これはなんだかすごくよかったな。SNSでの人気とか、社会的立場とか、そういうのじゃなく人を見てたよね。学生生活の描写はないけど、ぐちゃぐちゃに苦悩して、自分の生み出した幻影に囚われて、青臭くて、このパートも青春だと思った。

蓉と同じでオルタネートを使わずに時間を過ごした人だけど、2人において違うのは「使わない」という状況を選んだか、選んでないか。尚志の場合は高校を中退したことで、そもそも使う権利がなかったわけだから。

オルタネートが絡んでないから、なんなのか、2020年というよりは2000年台前半、まだチャットモンチーがインディーズバンドだった頃を思わせるノスタルジックな雰囲気がある。リアルタイムでその時代に邦ロック畑にいたわけではないので想像なのだけど。尚志が住んでいた『自鳴琴荘』も、オシャレなシェアハウスというよりは常盤荘のような、はちょっと言い過ぎだけど、一昔前の建屋をイメージして読んでた。という名前だしね。

ちなみにわたしが一番映像にしてほしいのはこのパート。映画『鬼火』を見る場面とか、河原でホルンを聴く場面とか。そしてなんといっても文化祭のステージ!尚志と豊のセッション!見たい!読みながら思い出したのは、映画化された坂道のアポロンでした。

 

題材選びの妙

大きなところで言うと「SNSマッチングアプリ」です。今や誰しもピンとくるアイテムだけど、俗っぽく描くのではなく、青春群像劇の真ん中に違和感なく置いていることがまず、すごい。

そしてそれ以外のところで言うと料理、植物、音楽など、デジタルと根本的な部分で相反する(と感じている)テーマ。指先一つでアクセスできる前者と、味や感触、匂い、生の音といった五感で感じたい後者。読み始めて驚いたよ、「あれ?もっとデジタルな話じゃなかったっけ?」と。土いじりから始まるからね。きっとこの小説の魅力というのはそこにもあり、これらの描写が豊かだからであると思う。ご飯がおいしそうなのもそうだし、音楽に関しては音色から演奏者の些細な仕草まで表現に余念がない。

そういえばチャイナシンバルというあまり一般的ではない名称が出てきたのは、なんとなく加藤さんらしい。

 

些細に散らばるメッセージ

物語の大筋とは少しズレたところにも、筆者の価値観が表れている部分がある。伝えることを意図しているわけではないかもしれないと思うほどさりげなく。

例えば、ブラックバイトと評判されていたリゾートバイトに応募したら、実態はそうではなかったという、ネットの口コミの信憑性のなさ。例えば、苗木3つのうち1つだけのために2つを取り除く間引き、「ひとつの植物を守るために不必要な存在を切り取るという選択」をいいと思うことの危うさ。

 

なぜ描ける、心情描写

先述のウィークエンドシトロンしかり、恋をした人にしか見られない景色が沢山あった。歳の離れた異性の視点が、これほどに鮮やかに描けるものなのか。

高校までやってきた三浦栄司と、大学近くのケヤキ下にあるベンチに並んで座ったときの蓉。早足で歩いたせいか心臓がどくどくしているのに、平然としている隣の彼を見て「男の子だなぁ」と思う。こんな些細なことから「男の子だなぁ」と思う気持ちがなぜわかるんだ、加藤さん……。

 

表現の美しさ、まるで詩

加藤さんといえば、わりと小難しい単語を使ったテクニカルな文章の印象が強かった。特に処女作の「ピンクとグレー」なんかを読むと、すらすら読める文章ではなく、わりとクセがある。彼の個性であるという良い意味でもあるし、読む人によってはそうでないかもしれない。

しかし今作はどうだ。驚いたことに、難しい漢字表記や、想像し難い比喩などはシゲアキ比少ないように感じた。それと引き換えに、柔らかいことばを使いながらも、思わず唸るような美しい表現が散見された。肩の力を抜きながら、新しい魅力を身につけていたのだ。まるで加藤シゲアキそのもののよう。わたしが思う「新章」の理由はこのあたり。

陽で赤く染まる三浦くんはまるで燃えているみたいだった。 (中略) 三浦くんが燃えている。燃えているのに、灰にならないで、ずっとそこにいる。 

うまく描こうと思ってこの文章は描けないと思うよ。感性の賜物。

 

例えのおもしろさ

アスベストアスベストという単語が出てくるシーンがある。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/topics/tp050729-1.html

取り付けるより、取り除く方が難しいと語った後、「一度始めてしまったらもう元通りにならないことはたくさんある。」と続く。

その例えにアスベストを使うんだ、と。この他にも、一見関係のない話が核に絡んでくることがある。意味のないモチーフは使われていない。かなりそういう傾向があるよね。だからすべての固有名詞が気になっちゃう。茶摘みとかさ。

 

 

章立てされて別れていた3人の視点が、終盤の文化祭でクルクル入れ替わるようにして交わっていく。感じていることも、居場所も違うのに、文化祭という同じプラットフォームで同じように汗を流す。物語が一つの光になるような感覚、それがとても気持ちよかった。

一夜に重なる夢と夢〜ミュージカル『ハウ・トゥー・サクシード』〜

オーケストラがチューニングをする音が聴こえる。知らなかった、生演奏なんだ。数分後、幕が上がる。ステージ上部から窓拭きをするフィンチを演じる増田さんが現れた。

「増田さんが、息をしている。ステージの上で」大げさでなくそう思った、あの呼吸を忘れそうな感覚は時間が経った今でも色褪せない。閉塞感と共存したモノクロの日々に色が灯るのを感じた。

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9月、シアターオーブ。増田さんにとって、夢の! 海外ミュージカル! 春からコロナが流行して自粛期間、多忙の夏を乗り越え、そして秋口の当日まで、ずっと「どうか幕が上がりますように」と祈り続け、ようやく迎えたその日だった。

とにかくエンターテイメントの力に心を揺さぶられて、終演後しばらくはなにも言えなかった。最初の音が鳴った瞬間に日常から切り離される感覚、肌で感じる迫力、音や熱のこもった空気に包まれる体験、そのすべてを最大限に感じさせてくれるキャストのパフォーマンス、それはまるで夢のようで。「現場に足を運ぶ」ということの意味、奪われて、返されて、改めてその本質を知ることになったような気がした。

 

あらすじ
主人公のフィンチはビルの窓拭き清掃員。「努力しないで成功する方法」という本を読んだことから「出世したい」と意識するようになり、本の教えの通りに行動することでトントン拍子に出世していく。利己的でずる賢くもありながら、どこか憎めない人柄で大企業ワールドワイド・ウィケット社の社長・ビグリーや社員達をうまく絡めとり、上り詰めた先にはーー。

 

How To Succeed in Business Without Really Tlying(努力しないで出世する方法)

イントロからめちゃくちゃワクワクする! エネルギッシュでテンポ感の良い舞台を象徴するようなオープニングナンバー!窓拭きのリフターが上の階から下の階に降りてくるように、上から登場。手には本。黄色のつなぎ。

〇〇でも登場した「僕はできる」というのはここで発することば。虚勢でも薄っぺらくもない、自信と余裕を含ませながらも愛らしい笑顔とこのことばはフィンチにも、増田さんにもピッタリ。久しぶりに聴いた声と姿に初っ端からジーンとした。

Happy To Keep His Dinner Warm(幸せな奥様)

WWW社に忍び込んだフィンチとローズマリーが出会い、彼女はたちまち彼のことをすきになる。そして結婚して幸せになる夢を語る。パンフレットから訳を持ってきてるんだけど、暖かい晩御飯を用意することが幸せな奥様像というのがおもしろいなぁと思った。パンフレットで振付師のクリス・ベイリーはその在り方を「現代では性差別だととらえられますよね」と言っていて、それに対して「でも今の日本でもローズマリーように考える人もいますし、僕はそれもひとつの考え方だと思います」と返してた。個人的にたしかにベイリーの言う通りであると同時に、逆にローズマリーのような思考の人が肩身が狭くなってるのではと思うようなこともあり、増田さんのその考え方は優しくてすきだった!(ベイリーもその後アメリカでもそうです」とその部分には同意をしている) 

Coffee Break(コーヒーブレイク)

フィンチが出てないのに、一幕で一番すきな場面!ここで言いたいのはひたすらに「コーヒーがないとやってられん!!! 飲みたい!!!」なんだけど、そんなに飲みたいんか!?!?(笑)驚くべきコーヒーへの熱情。それだけで一曲あるの、おもしろい。

コミカルな場面ではあるけど、途中から開いた口が塞がらなかった…… こんなに踊りが激しい舞台は初めて見た! センターに置かれたコーヒーマシンを囲むようにしながら、肩車状態から前身に移動したり、床に転がる秘書の足を引っ張って移動させたり、縦横無尽に動き回る秘書ズの柔軟さと男性社員のパワーにビックリする動きの多いダンスが印象的。

The Company Way(会社の望むまま)

まずは郵便室に配属されたフィンチ。配達物を後ろの棚に入れたり、ハンコを押したり、すべての動作がコミカルでかわいくなるのでミュージカルはステキ〜〜〜!トゥインブルとフィンチの掛け合いがたまらない!考えてみると年上男性とのデュエットもなかなか見ないので、新鮮だった。よかった。

ここで社長の甥というコネで入社したバドと出会う。バドが終始めちゃくちゃいいキャラで視線泥棒だった……! 全身からボンボン・ウザおぼっちゃま感が出ていて、一周回って愛すべきアホの子。フィンチだけでなく、彼も物語を通して変化する。バド視点のスピンオフストーリーがほしい〜〜〜!

A Secretary Is Not A Toy(秘書はオモチャじゃない)

タイトル通りの主張。秘書ズがパワフルですきでした。秘書という一見補佐に見える役割は全部女性が担っているものの、ただの添え物ではなく、自分の意思で物事を切り開いていく強さを持つ、そういった女性像がここで見えた。1960年代のアメリカ、どんな人たちが生き、仕事をしていたのか、そんなことに思いを馳せながら。全く違う時代を生きた存在をなんとなく身近に感じられる舞台だったなぁと思う。

Been A Long Day(長い一日)

仕事が終わり、帰りのエレベーターの中。エレベーターのセットがあり、開閉するドアを背にしたアングルからカゴの中を覗いてる構図。脈があるのかないのか自分もよくわかっていないようなフィンチ、ガンガンにアプローチするローズマリー、2人の仲を取り持ってくれようとするスミティ、3人の掛け合い。

観客に社長・ビグリーと新しく採用された秘書・ヘディ・ラ・ルーの関係性が匂わされるのはこのあたりだったかな? 2人の会話中に通りかかるバドにバレないよう、真面目な話をしているフリをする。

Grand Old lvy(我がオールド・アイビー)

休日出勤(をして仕事に精を出している風に見せかけている最)中のフィンチ。机で変な顔(白目までしてたっけ…… うろ覚え……)しながら寝たフリをしてた。たしかここでジャケット脱いでるんだけど、羽織がないと露骨にガッカリしたからだが見えて、ヒーヒーしたよ……。真横から見るとほんとに厚みがすごい……。締まりすぎてないあたりが余計に(みなまで言わない)

たまたまやってきたビグリーと出身校が同じフリをし、「アナグマ!」(近隣大学同士の愛称のようなものとでもいいましょうか?)と意気揚々にデュエット。ここも何気に運動量が多く、ビグリー役の今井さんも「これ、見た目よりキツイですよ〜!!」と。たしかに、かなり息を切らしてた!(笑)アメフトのモーションをする増田さんがなんだか新鮮でおもしろかった記憶。

Paris Original(パリ・オリジナル)

会社でのパーティー、とっておきのドレスをオーダーメイドしてウキウキのローズマリーだけど、なんとなんとやってくる女性陣次から次へと同じドレス! 最後のヘディまでまるっと全員リボン付ゴールドのドレス、まさか…… そんなこと!(笑)

衣装は全体的にとってもかわいいかったなぁ〜。フィンチはグレー、ローズマリーはピンク、スミティは青など人物ごとにテーマカラーがあり、視覚的にも人を把握しやすくて、舞台ならではの演出なのかなと思った。物語を経るにつれて同じカラーをベースに衣装が変化していくんだけど、例えばフィンチならどんどん良さげなスーツになっていくという。数時間の舞台の中での時間経過の表現として、衣装をそういう風に使うんだと感動した。

Finch Is In Love(恋に落ちたフィンチ)

さてフィンチ、パーティーの宵、バドの企みにより社長室でヘディと二人きり。あろうことかヘディからキスを要求され、あっさり軽くキス……!!!(事前情報をいれてなかったので、驚いたには驚いた) 「この男、出世以外眼中にないのでは」と思わせる瞬間でもあったけれど、そこでまさかローズマリーへの恋心に気づくだなんて、予想外! 他の女性とキスをして、「あれ、この人ではない」と思うことで、逆説的にローズマリーへの想いを自覚するわけですね。

Rosemary(ローズマリー)

Finale Act One(1幕フィナーレ)

フィンチとローズマリーの想いが通じ合って、ハートマークが飛び交っているのが目に見えるようなピンク色の空間。「ローーーズマリーーー」めちゃくちゃローズマリーの名前を呼ぶ。ここのある種のクライマックス感はすごかった、2人において一つの山場だもんね。リズムとるのが難しそうな歌。低音と高音のハーモニー。

ちなみにフィンチ、明らかに自覚前とローズマリーを見る目が違って、ドキッとした……。まさに付き合いたての2人のように、すーーーごい甘い表情をしていたわけです……。

 

Cinderella, Darling(シンデレラ、諦めないで)

Happy To Keep His Dinner Warm(Reprise)(幸せな奥様)(リプリーズ)

さてさて、一人部屋を用意されるほどに出世していくフィンチ。秘書に命じられたローズマリーは、「秘書という関係性だと結婚できない」と何度も仕事を辞めようとする。そんなローズマリーに対して「結婚することはもう決まってることだろう?」と確定事項として伝える台詞があって、それが言い方含めてとんでもなく男らしくて最高でした……。自信のある男……。

Love From A Heart of Gold(愛の宝物)

ビグリーとヘディの場面。どんな顔して見てたらいいかわからない場面ナンバーワンだった……(社長と愛人のラブシーンなので……) 与えてもらった秘書の仕事辞めて遠くへ行きたいヘディ、手放したくないビグリー。

Gotta Stop That Man(あいつを止めないと)

I Believe In You(君を信じてる) 

順風満帆にエリート街道まっしぐらのフィンチをよく思わない男性社員。これまでとはガラッと雰囲気が変わり、だんだん暗雲が立ち込めてきた。

このあたりでフィンチ対男性社員複数人の掛け合いがあった(と思う)んだけど、声量や声の強さが一人でも負けていなくて度肝を抜かれたな〜。増田さんってあたたかくて丸い、なんとなく「迫力」からは遠い歌声のように思っていたけど、ここでは周りをのみこむような強さがあったように感じた。低音がこんなに響くなんて知らなかった、とはこの舞台を通して何度も思ったこと。

人がすぐに入れ替わる宣伝部長というポジションに就いたフィンチは企画を練ることに。なかなか思いつかない中、バドが持ち込んだ宝探し番組をアレンジし、会社の株を景品にすることを思いつく。宝探し自体は元々バドが社長に提案し却下された企画だったが、うまいことプレゼンをし、番組放送までこぎつける。

プレゼンの前だったかな、洗面台で自分を鼓舞する姿、孤独でプライド高いエリートマンの顔は全編通して上位に入るカッコ良さ。

Pirate Dance(海賊ダンス)

I Believe In You(Reprise)(君を信じてる)(リプリーズ)

しかし手を組んだお宝ガール(番組の賑やかしポジション)・ヘディがお宝のありかを暴露してしまい、企画は大失敗(ちなみにその情報は社長がバラしてしまっていたのだった……) 「この企画がヤラセでないと、キリストに誓える?」と司会者にけしかけられて嘘をつけなかったヘディを見て、クリスチャンなんだ〜と思った。この時代のアメリカの(もちろん一部ではあるけれど)思想観がナチュラルに垣間見える。 

失敗した責任を問われるフィンチ、ここで本からのアドバイスは「最初に戻ること」。つまり窓拭き。その場を去りかけたフィンチは会社に見つかり、憔悴しきったまま重役会議で裁かれそうになる。

ここでなんと、元々窓拭きだった会長に気に入られる。「ピカーーーン!(ひらめき顔)」発動!!! 毎回毎回いい表情なんだけど、どうにも説明がつかない! う〜ん、しいて言うならいいボケを思いついたときの顔?(笑)

Brotherhood Of Man(世界は一つ)

フィナーレ前のクライマックス、パフォーマンスのすごさが頭に残り、ここまでどういう流れだったか記憶が曖昧なんだけど……「人類みな兄弟だ〜! 」とその場にいたジョーンズ+男性キャスト勢で歌い踊り始める。

とにかくここです。一番の見せ場。すごかった。今までの山も谷も全部ここのためにあったんだと思うほどの熱量。ターンひとつをとっても普段の「魅せる」とは少し違い、気迫を感じる動きではあったけど、全体的な踊りの仕草にはジャニーズプライドが滲んでいて、フィンチだけど増田さんだった。すきだったのは、手をからだに這わせるような振付!息を吐く間もなく舞台上から飛び込んでくる音と映像と熱量、圧倒的な情報量に飲み込まれる観覚が忘れられません。

Finale(フィナーレ)

Bows(カーテンコール)

前髪を分けて出てきてひっくり返りそうになったのは、ここでしたか……!?

内心悲鳴あげてたくらいなので、記憶が定かではない……。おろしていた前髪を分けて、これまでのファンチとは違う印象で登場。スーツでそのヘアスタイルはさらにめちゃくちゃカッコいいので、心臓に悪いです。

最終的にフィンチは会長に就任。会長はなんとヘディと結婚し、新婚旅行へ……。ローズマリーとの結婚も無事叶い、「努力しないで出世する」を完遂したところで物語は終わる。しかし上には上がいる。まだまだファンチは上り詰めるチャンスを逃さないだろう、という締め。

 

フィンチ、野心家で小賢しくて出世のためなら周りも顧みない、ともすればただの「嫌なヤツ」にも見えかねないのに、増田さんから滲み出るチャーミングさによって「憎めないヤツ」に見えていたの、すごい。

てる部分はありつつ、やっぱり最初から最後までフィンチという役に乗り移っていたように思う。カーテンコールで初めて"増田さん"を見て、胸がギュッとした。途中「増田さんの舞台だから」がきっかけで観にきたことも忘れるほど(!)すごくおもしろいミュージカルだったし、増田さん自身も手応えがあったんだと思う。晴々と、堂々と、それでいて主張の強くない余裕さを感じさせる佇まいで客席に顔を見せてくれた。背伸びなど感じさせない、ありのままで夢の海外ミュージカルを乗り切ったのだと解り、その大きい背中をぼーっと眺めてた。

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無事に幕が上がったこと、キャストや観客が健康なまま最後まで走り切り、大千穐楽のその日に幕を下ろせたこと、特に今年においては全部あたりまえではなかった。だからこそ全公演終えられたことがまずとにかくうれしい。奇跡のようだけど、わたしは舞台にかける愛が運んできてくれた結果だと思う。実現してくれた座長を始めとしたキャスト・製作陣の方々の努力を想像するだけで感謝の気持ちでいっぱいになる。

前回の現場から231日、決まっていたライブのチケットも全て払い戻しが終わり、さらに仕事が忙しく余裕のない日々を送っていたタイミングでこの舞台。訪れたその場所、目の前に広がる光景はまるで夢のようで。うん、今思い返しても夢だったんじゃないかと思うほどに、鬱々としていた日常を忘れさせてくれる最高のエンターテイメントを体験をさせてもらった。満員の客席から拍手を送ることはできなかったけど、ライブができない日々を経た後だからこそ、目の前に観客がいることがあなたの心を少しでも潤していれば冥利に尽きます。

 

夢を叶えてくれてありがとう。夢を見せてくれてありがとう。これから先もずっとたのしみです。